2008年2月16日土曜日

英国医師会

 英国医師会(BMA: British Medical Association)は、例の7月に起きたロンドン地下鉄・バス同時爆破テロ事件で一躍有名になったので、BMA ハウスと呼ばれるその建物をニュースでご覧になった方もいるかもしれない。30番のバスがBMAハウスの目の前で爆発したので、中で会議中だった医師たちが目の前の公園で救命処置をした、という話である。直後にはバスの破片や血糊がこびりついていた建物だが、今ではすっかり元の状態に戻っている。

 余談だが、BMAハウスは歴史的建造物に指定されていて由緒もあり、施設も整っているので、結婚式まで受けている。外からは見えないがきれいな中庭もある。建物は違うが文豪チャールズ・ディケンズが住んでいた場所に建てられている。

 英国医師会は医師の労働組合である。そのため、医師たちの意見を集約して、政治的に働きかけるという役割もある。英国社会の中でもその発言力は無視できない存在である。

労働組合だからと言って英国で働く医師、みんながみんな入会しているわけではない。入会している医師の多くはコンサルタントと呼ばれる上位の医師たちと、家庭医たちというのが通例である。このあたり日本の医師会と似ているかもしれない。現在では無視できない存在になっている外国人部隊の医師たちはあまり入会していない。

英国で新たに医師登録する医師たちは年に1万5000人ほどである。このうち英国本国出身者は5000人で残りのほぼ1万人は海外からの医師である。出身国はインド4000人、パキスタン1000人、ドイツ700人と続く。英国で毎年医学校を卒業するのは毎年8000人に満たない。実はこの医学生の中に外国人や移民の二世、三世の割合もかなり高い。外国人医師がいなければ英国医療は成り立たないと言うわけである。

このように英国で働く医師の中で外国人の存在は大きくなりつつあるが、医師を代表する組合である医師会に参加するのは上位の本国出身者が多いため、英国医師会が政治に働きかけをする際、外国人に不利に働くようになることも多い。

なにもこれは英国医師会が外国人医師の入会を制限しているわけではなく、単に入会のメリットがさほど無いだけである。会員費は年間約7万円余りであるが、医師会の発行する雑誌であるBMJが送られてくる以外は、医師の職業保険や職業上の相談に乗ってくれたりするが、実際にはみな保険は個人で入っているし、BMJもほとんどの病院の図書館にあるうえに、今では無料でインターネット上で閲覧できる。

こんな訳だから、自然と懐に余裕があり、仕事の範囲に運営など政治や組織がらみのことが含まれるコンサルタントや家庭医たちが多くなるわけである。

会員の構成が実際の現場を反映していないため、上記のように少し偏った働きかけをしている例も見られるが、もちろん、医師の職業倫理や、医師の評価など、権利を主張するだけでなく、医師の質の向上にも取り組んでいる。このため、一般には医師会は偏っていると言う意見もある一方で、一目置かれる存在でもある。

最近熱心に行っているのがタバコに関してで、レストランなどでタバコを禁止にする件などでもいろいろ強い働きかけをしている。

 実はこれには長い歴史がある。タバコを吸うと肺がんになる確率が高くなることは今では常識のようなことだが、これを臨床研究ではじめて証明したのがBritish Doctors Studyと呼ばれる有名な疫学研究である。

これは1951年に始まって、つい最近まで続いていた息の長い研究で、1951年に英国医師会の会員であった男性医師すべてに質問表が送られ、結局はその3分の2(約3万5000人)が参加した。タバコを吸う医師と吸わない医師で肺がんや心臓の病気で死亡する確率を長期に観察し、さまざまな統計処理をした上で、肺がんや心筋梗塞をはじめ、様々な病気がタバコと直接関係があることを示した。英国医師会の会員医師は海外に行ってしまう可能性が低いのでちゃんと長期に観察できる可能性が高いことと、回答率が高いのではという期待などから医師が選ばれたらしい。

 最近のもう一つ大きな変化は医師の再評価(revalidation)である。これは医師会とは別の、GMC(General Medical Council)と呼ばれる医師の登録などを請け負う組織が担当している。簡単に言えば医師免許を最初に許可したらそのままというのではなく、医師の技量や知識を継続的に再評価していくというシステムである。

ただ、このシステムは今年の(2005年)4月に導入予定だったのが、すったもんだの挙句、医師会が内容の変更を求めたために、現在導入が延期されている。内容が固まったらまた改めて報告する。

(既出・日経メディカルオンライン・禁無断転載)

0 件のコメント: