2005年のことだが、
日本の1~4歳児の死亡率 先進国の3割増で「最悪」
「長寿命を誇る日本だが、1〜4歳児の死亡率は先進国の平均より3割高く、実質的に「最悪」なことが厚生労働省の研究班の調査でわかった。原因ははっきりしないが、主任研究者の田中哲郎・国立保健医療科学院生涯保健部長は『小児救急体制が十分に機能していないのかもしれない。医師の教育研修なども含め、幼児を救う医療を強化する必要がある』と指摘する。」
という記事があった。
さまざまな、知らない情報が隠れている可能性があるとは思うのだが、私がこの記事からだけで得た印象では、以下の五つの理由から、この死亡率の高さは小児救急体制によるものだけではないように思った。
1) 私が豪州、英国で新生児科医として勤務してきた印象から、英国や豪州では日本に比べて、A)先天異常系の病気(たとえばダウン症など)の出生前のスクリーニングが徹底していることや、B)出生後も予後が芳しくないと予想される症例(新生児慢性肺疾患や、高度な未熟児、重症仮死、先天奇形など)では比較的早期に「諦める」傾向が強いことを経験として実感してきた。このことが、周産期死亡率が日本で低く、諸外国で高めである原因の一つではないかと感じてきた。(どちらがいいということではないし、単なる要因の一つとして)
2)記事では先天奇形や肺炎、心疾患、インフルエンザ、敗血症などが諸外国に比べて高いとあった。インフルエンザ、敗血症、肺炎でこの時期(1歳から4歳)に死亡する例では現在の日本では基礎疾患がある児が多いような印象がある。先天奇形や心疾患も含めて、基礎疾患のある児が多いということは果たして小児救急体制によるものだろうかと少し疑問に感じる。
3)豪州や英国での小児救急体制は「制度」的には日本より優れていると思いますが、救急外来で何時間も待たされるのが当たり前の豪州や英国の現状など、実際に受けている診療・中身という点においては身を粉にして働いておられる小児科医の先生方のがんばりに支えられて、日本の方が実は優れていると感じる点も多い。
4)一方で豪州や英国での新生児診療の整備が違いがあるにしても、日本に比べて遅れているというようにも実感として思えない。
5)ちょっと冷徹になって、最後には数字遊びだがが、記事をまとめると、各国平均はあたえられた数字から逆算して、
全体の死亡率は10万人あたり783人(各国平均の85%=各国平均921人)(年齢による標準化はさすがにしていると仮定)
0歳児の死亡率は10万人あたり340人(各国平均の67%=各国平均507人)
1-4歳児の死亡率は10万人あたり33人(各国平均の130%=各国平均25人)
となる。仮に、
「日本では諸外国に比べて重症新生児をより助ける傾向にあるために周産期死亡率は低いが、一方、新生児期・乳児期を通過できたこういった重症新生児の卒業生たちが1-4歳時点で亡くなる傾向にあるため、諸外国に比べて死亡率が高くなっている」という仮説を考える。
全体の死亡率である85%が日本の一般標準レベルと考えると0歳児の予想死亡率は10万人あたり
507人×85%=431人
で、
431人-340人=91人
が0歳時の時点で助かったとする。
理論的にこの助かった91人の死亡危険度を求めるのは難しいとは思うが、背景の死亡危険度は年齢により下がると考えられる。仮に危険度が日本の背景人口と平行して下がると考えると、
1-4歳時に死亡した33人のうち、
91人×(33人÷340人)=9人
は0歳時に死亡していたと仮定すると、
33人-9人=24人
となり、
24人÷25人=96%となる。
こうすると、日本の1-4歳児の死亡率は、先進国の各国平均以下という計算になるのである。
各国平均を理論的危険度として使用すると、もうこしこの数字は高くなるが、いずれにせよ、理論的危険度や日本の周産期医療の評価を変えることでかなり大きく数字は変わる。もうすこしちゃんと込み入ったモデリングをしたいところだが、時間と情報が足りないので、こんなところである。
もしかしたら、3割高い死亡率が小児救急体制の不備による根拠が違うところにあるのかもしれない。英国や豪州の状態だけから各国を類推することは行き過ぎかもしれない。それでも上記の記事から受ける印象は、これだけの結果からその結論を導くのは危険だということである。もちろん日本で小児救急体制を整えることは小児科医の勤務体制からいっても急務ではあるが。
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