2008年2月21日木曜日

英国の学会

医師は二種類に分けられることは、ご存知の方も多いと思う。内科医と外科医である。もともとの袂が違うため、この二種類の医師にはいまでも大きく違う点がある。

英国で医学校を修了するとMBBSという称号をもらうことになる。これはBachelor of Medicine / Bachelor of Surgeryの略である。日本語で言えば「内科学士・外科学士」とも言うべきであろうか。すなわち内科と外科は学位で区別するぐらい違うものなのである。

呼び方も違う。内科系の医師はDr○○と呼ぶが、外科系の医師はMr/Miss○○と呼ぶのが慣わしである。Drが付くからといって内科が偉いわけではない。外科系医師たちはMr○○と呼ばれることに誇りを感じるのである。

一般の方にはその違いが分からないかもしれない。端的な違いは「手術をするかしないか」である。英国では単なる医師ではなく、内科系(内科、小児科、家庭医など)で確固として自分の専門を確立した医師をPhysicianと呼び、外科医(Surgeon)と区別する。

それでも英国では伝統的にPhysicianが一般的な医師像の代表である。このためPhysicianたちの集まり(学会)であるRoyal College of Physicians(王立内科医協会)は英国でも別格である。この王立内科医協会は国王ヘンリー8世により1518年に創設された。

英国にも学会は数多く存在する。中でも昔ながら続いている学会や規模の大きい学会は英王室のメンバーがパトロンとして就くため、ロイヤル・カレッジ(Royal College)と呼ぶ。

日本では内科学会と小児科学会は別物であるが、英国の王立内科医協会は10年前まで内科医と小児科医の集まりであった。10年前より小児科のみが独立して別の学会、王立小児保健協会(Royal College of Paediatrics and Child Health)という学会を作った。

カレッジと聞くと大学と思われるかもしれない。英国の学会は大学ではないし、正式には完全に私的な団体(慈善団体)である。しかしながら、大学に順ずるような役割を担っている。たとえば内科学会の正式会員になるとMRCP (Member of Royal College of Physicians)という称号が与えられ、特別会員(フェロー)になるとFRCP (Fellow of )という称号が付き、学会内でも特別扱いである。

当然ながら会員になるのは簡単ではない。普通の会員になるためには卒業後のインターンと研修期間を修了し、難しい専門医の試験を通らなければならない。ただし、専門医の試験に通り、会員になったからと言って専門医になれるわけではない。前にも書いたが、会員になってようやくその専門の研修を受けさせてもらえるようになるだけである。

会員になってから規定の研修ポスト(ポストの数は限られる)で一定期間(最低5年)研修を受け、その研修を指導した医師のお墨付きをもらってはじめてコンサルタントという職に付くことが出来る。英国内でこのコンサルタントの職を5年以上すれば、特別会員に推薦してもらえる。ここで本当の意味での「専門医」として確立するわけである。

称号を与えると言う意味で大学に近い存在であるが、さらに大学と同じように、MRCPやFRCPになるとそれぞれの段階に応じて、正式な角帽・ガウンも着ることができ、学会の儀式では着用することになっている。添付の写真は学会のものではないが筆者がロンドン大学熱帯医学公衆衛生学大学院での学位を頂いたときの帽子とガウンである。

この学会の会長(president)になると自動的に称号はPRCP(President of)に変わり、正式な儀式では例のガウン・帽子とともに、金色の大きな鍵を身につける。

学会はどこも大きな建物を持っているし、どこもロンドンにある由緒のある建物を利用しているので古くて美しいと言うのが相場である。(実は内科学会の建物は新しい現代風の建物であるが。)たいていの学会の建物内には歴代の学会長の肖像が掲げられている。会議をするときなどは先人達に睨まれている気になったり、守られている気になったり、と不思議である。

学会員はこういった建物を利用することが出来るが、当然ながらただの会員と特別会員では使えるものが違う・・・。

英国の学会はこのような古めかしい伝統に支えられているのも事実だが、長く続いてきたのは、時代に応じてしっかりと変化してきたから、ということも言える。

どこの学会にもClincial Effectiveness Unitという部門を持つ。ここの部門はその領域における世界中のガイドラインや系統的レビューの情報を入れながら、こういったものが自国で使えるかどうかの評価をしたり、学会でガイドラインや勧告、政策案などを出す場合の臨床疫学的(科学的根拠に基づく医療)な根拠を作っていたり、整理していたりする。

もう一つ大きな部門は教育部門である。もちろん専門医試験など、国内向けのものもあるのだが、外国人のための部門もある。図書館をもつ学会も多い。

伝統を保ちながら、必要なところは変えていく、といったところであろうか。実は上に掲げた専門医に関わることや、勧告など外向けの部分は案外現代的であるが、その大きな組織の奥に入っていけば行くほど、魔物のような伝統が待ち構えている。不思議なところである。

(既出・日経メディカルオンライン・禁無断転載)

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